電気と電子と電波の日記

自分のための備忘メモです

北朝鮮ミサイル発射時の放送

一昨日北朝鮮のミサイルが発射された際、各放送局はミサイル発射に関する放送を一斉におこなったが、その法的根拠についてアーカイブしておく。あくまでも電波や放送を楽しむための予備知識であって、法学的な解説をするものではない。

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あのような放送をおこなう根拠となる法律は、通称「事態対処法」「国民保護法」の2つで、「放送法」では直接規定されていないことがポイントです。

 

■総論的な参考資料

内閣官房 国民保護ポータルサイト

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kuukou/dai6/siryou4_1.pdf

http://www.fdma.go.jp/html/intro/form/pdf/kokuminhogo_unyou/chihou_kondankai/haihuSiryou09.pdf

 

■事態対処法

武力攻撃事態の対処の基本理念、基本事項を定める法律です。

平成15年の通常国会で成立した「事態対処法」 - 内閣官房 国民保護ポータルサイト

 


武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 (平成十五年法律第七十九号
 
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、武力攻撃事態等(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態をいう。以下同じ。)及び存立危機事態への対処について、基本理念、国、地方公共団体等の責務、国民の協力その他の基本となる事項を定めることにより、武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処のための態勢を整備し、もって我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律(第一号に掲げる用語にあっては、第四号及び第八号ハ(1)を除く。)において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
七 指定公共機関 独立行政法人独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)、日本銀行日本赤十字社日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるものをいう。
 
ここで、日本放送協会NHK)が、公共的機関の「指定公共機関」として出てきます。「指定公共機関」の責務は
(指定公共機関の責務)
第六条 指定公共機関は、国及び地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態等への対処に関し、その業務について、必要な措置を実施する責務を有する。
とされています。では「公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの」とされている放送関連の指定公共機関は、どのようなものがあるのでしょう。政令を見てみます。
 
平成十五年政令第二百五十二号
 
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律施行令
 
内閣は、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第二条第四号及び第五号の規定に基づき、この政令を制定する。
  
(指定公共機関)
第三条 法第二条第七号政令で定める公共的機関及び公益的事業を営む法人は、次のとおりとする。
 
  
三十七 次に掲げる事業者のうち内閣総理大臣が指定して公示するもの
ヌ 放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第二十三号に規定する基幹放送事業者(放送大学学園法(平成十四年法律第百五十六号)第三条に規定する放送大学学園、その行う放送法第二条第二号に規定する基幹放送(以下この号において単に「基幹放送」という。)に係る同法第九十一条第二項第二号に規定する放送対象地域が一の都道府県の区域内にとどまるもの及び同法第百四十七条第一項に規定する有料放送を専ら行うものを除く。以下この号において「特定基幹放送事業者」という。)及び同法第二条第二十四号に規定する基幹放送局提供事業者(同号に規定する基幹放送局設備を特定基幹放送事業者である同条第二十一号に規定する認定基幹放送事業者の行う基幹放送の業務の用に供するものに限る。)
まず、十七項に日本放送協会はここでも指定公共機関であることが明記されるのですが、三十七項は、「次に掲げる事業者のうち、内閣総理大臣が指定して公示するもの」として、指定公共機関に指定される場合がある放送事業者の範囲が規定されています。読みにくい条文ですが、要は
 
放送大学学園と、一の都道府県域をサービスエリアとする地上波局と、有料放送事業者を除いた基幹放送事業者(=特定基幹放送事業者)
・「特定基幹放送事業者である同条第二十一号に規定する認定基幹放送事業者の行う基幹放送の業務の用に供するものに限る」、つまり上で除くとされた基幹放送の業務の用に供する基幹放送局提供事業者
 
とされています。(ここで「特定基幹放送事業者」という表現がありますが、この表現は放送法には現れず、この法律独自の表現のようですね) で、実際にどこが指定公共機関に指定されているのかというと、その公示です。
この公示では、ビジネス的な分類ではいわゆる在京キー局、在阪在名の準キー局放送法の分類では関東、中京、近畿の各広域圏を放送対象地域とする基幹放送事業者と、全国を放送対象地域とする短波放送の「ラジオ日経」が指定されています。
一方、基幹放送局提供事業者の扱いなのですが、基幹放送局提供事業者は、現状では、地上基幹放送の基幹放送局提供事業者は存在しないので、衛星基幹放送の基幹放送局提供事業者と移動受信用地上基幹放送がどう扱われるのかなのですが、有料放送の用に供する基幹放送局提供事業者は指定を受ける当事者ではないように読めますし、実際に彼らは指定は受けていません。
 
 
■国民保護法
 
さて、今度は国民保護法。こちらは実際にコトが起きたときにどうするかを定めています。
 
 
第一章 総則
第一節 通則
(目的)
第一条 この法律は、武力攻撃事態等において武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護し、並びに武力攻撃の国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることの重要性に鑑み、これらの事項に関し、国、地方公共団体等の責務、国民の協力、住民の避難に関する措置、避難住民等の救援に関する措置、武力攻撃災害への対処に関する措置その他の必要な事項を定めることにより、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号。以下「事態対処法」という。)と相まって、国全体として万全の態勢を整備し、もって武力攻撃事態等における国民の保護のための措置を的確かつ迅速に実施することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「武力攻撃事態等」、「武力攻撃」、「武力攻撃事態」、「指定行政機関」、「指定地方行政機関」、「指定公共機関」、「対処基本方針」、「対策本部」及び「対策本部長」の意義は、それぞれ事態対処法第一条、第二条第一号から第七号まで(第三号及び第四号を除く。)、第九条第一項、第十条第一項及び第十一条第一項に規定する当該用語の意義による。
 
2 この法律において「指定地方公共機関」とは、都道府県の区域において電気、ガス、輸送、通信、医療その他の公益的事業を営む法人地方道路公社地方道路公社法(昭和四十五年法律第八十二号)第一条地方道路公社をいう。)その他の公共的施設を管理する法人及び地方独立行政法人地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項地方独立行政法人をいう。)で、あらかじめ当該法人の意見を聴いて当該都道府県の知事が指定するものをいう
 
3 指定公共機関及び指定地方公共機関は、武力攻撃事態等においては、この法律で定めるところにより、その業務について、国民の保護のための措置を実施する責務を有する。
 この法律で「指定地方公共機関」が出てきます。「あらかじめ当該法人の意見を聴いて都道府県知事の指定」という微妙な表現です。
 
あれ、株式会社テレビ神奈川がない。
こちらにはあるか。
 
いずれにしても、こうして、各都道府県域の地上波民放は「指定地方公共機関」となっています。 
 
地方公共機関と、指定地方公共機関は、業務計画を作成しなければなりません。
(指定公共機関及び指定地方公共機関の国民の保護に関する業務計画)
第三十六条 指定公共機関は、基本指針に基づき、その業務に関し、国民の保護に関する業務計画を作成しなければならない。
2 指定地方公共機関は、都道府県の国民の保護に関する計画に基づき、その業務に関し、国民の保護に関する業務計画を作成しなければならない。
6 第三十三条第六項の規定は、指定公共機関及び指定地方公共機関がそれぞれその国民の保護に関する業務計画を作成する場合について準用する。
指定公共機関となっている在京キー局の国民保護業務計画の例を集めてみました。
 
 
では実際の運用の部分です。
体制のトップ(対策本部長)は、内閣総理大臣となっています。
第十一条 対策本部の長は、武力攻撃事態等対策本部長(以下「対策本部長」という。) とし、内閣総理大臣内閣総理大臣に事故があるときは、そのあらかじめ指名する国務大臣)をもって充てる。
 
第二章 住民の避難に関する措置
第一節 警報の発令等
(警報の発令)
第四十四条 対策本部長は、武力攻撃から国民の生命、身体又は財産を保護するため緊急の必要があると認めるときは、基本指針及び対処基本方針で定めるところにより、警報を発令しなければならない。

(対策本部長等による警報の通知)
第四十五条 対策本部長は、前条第一項の規定により警報を発令したときは、直ちに、その内容を指定行政機関の長に通知しなければならない。
2 指定行政機関の長は、前項の規定による通知を受けたときは、その国民の保護に関する計画で定めるところにより、直ちに、その内容を管轄する指定地方行政機関の長、所管する指定公共機関その他の関係機関に通知しなければならない。
都道府県知事による警報の通知)
第四十六条 都道府県知事は、前条第三項の規定による通知を受けたときは、その国民の保護に関する計画で定めるところにより、直ちに、その内容を当該都道府県の区域内の市町村の長、当該都道府県の他の執行機関、当該都道府県知事が指定した指定地方公共機関その他の関係機関に通知しなければならない。
(警報の放送)
第五十条 放送事業者である指定公共機関及び指定地方公共機関は、第四十五条第二項又は第四十六条の規定による通知を受けたときは、それぞれその国民の保護に関する業務計画で定めるところにより、速やかに、その内容を放送しなければならない。
・・という体制になっています。実際の放送では、指定(地方)公共機関の義務として放送している部分の表現と、報道機関として客観性をもって伝えている表現があるように思います。
テレビの場合、NHK、民放で統一したトリキリ画面が出ます。どこでどう決めたのかは知りませんが、これは義務として放送しているものと思われます。
 
放送内容の中で、「Jアラートからの情報」「エムネットからの情報」などの表現がありますが、その違いはなんでしょうか。Em-Net(緊急情報ネットワークシステム)は、地方公共団体や指定公共機関等に伝えるネットワークであり、国民保護法に基づき警報伝える正式なルートです。一方、Jアラート(全国瞬時警報システム)は、行政が防災行政無線等を通じて住民に直接情報を伝える仕組みです。
 

■意見など

法律で放送が義務付けられる訳ですから、特に表現や報道の自由の観点からは、放送局側は慎重な姿勢を示しています。

トピックス | 一般社団法人 日本民間放送連盟

指定公共機関と放送局 梓澤和幸

 

放送法との関係

国民保護法等を根拠とする放送義務と、放送法の「災害の場合の放送」の義務とは異なるものですが、

災害の場合の放送
第百八条  基幹放送事業者は、国内基幹放送等を行うに当たり、暴風、豪雨、洪水、地震、大規模な火事その他による災害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、その発生を予防し、又はその被害を軽減するために役立つ放送をするようにしなければならない。

の「災害」に武力攻撃に起因する災害、たとえば大規模な火事が発生したら…という場合が含まれるのかですが、「災害」は自然災害と人為的災害いずれも含まれるのが社会通念でしょうから含まれると考えるのが自然なのでしょう。