Xを見ていたら、10月6日(月)の早朝から、全国のNHKの各放送局のETV(教育テレビジョン)の呼出符号(コールサイン)が、NHK東京教育テレビジョンの「JOAB-DTV」に"統一"された、という記事を見かけるようになった。関東地方以外の視聴者からは、地元のETVの放送開始時に「JOAB-DTV NHK東京教育テレビジョン」が放送されたという画像が投稿されている。
 ETVは、GTV(総合テレビジョン)同様に、全国のNHK各放送局に呼出符号が割り当てられてきた。大阪放送局ならJOBB-DTV、名古屋放送局ならJOCB-DTVという具合に。
いったい何が起きたのか。
 憶測として流れているのは、ETVは、地域別の番組があるGTVと違って、NHK東京から送出される番組がそのまま放送されるだけなので、NHK各地の放送局のETVはすべて東京の中継局として扱うことになったから、各局のコールサインが廃止されたらしい、とか、NHK各地の放送局のETVのコールサインがJOAB-DTVに統一された、というもの。
その場合、これまで、高校野球の地方大会など、GTVでフォローしきれないコンテンツをETVで放送する場合があるから、各地のETVが東京の中継局になってしまうと、ETVを使ったローカル放送ができなくなるのではないか、という懸念も散見される。
さらには、ETVと同じく教育を中心とした放送であるNHK R2(ラジオ第二放送)の廃止に向けた準備ではないかという声もある。
10月7日時点でネットを見る限り、この件に関して、NHKからは特に説明はない。また、総務省の電波利用ポータル「無線局等情報検索」で公表している「無線局免許状等情報」を見ると、NHK各地の放送局のETVの呼出符号は従来からのものが記載されている。ただ、情報が更新されていないだけかもしれないと思っていたので、改めて10月23日に総務省無線局免許情報を覗いてみたら、各地のETV放送の免許情報に変化が見られた。
たとえばこれまでJOCB-DTVだったNHK名古屋放送局ETVの識別信号欄は空白となり、無線設備の設置場所欄に記載されている「演奏所」(いわゆるマスター、番組送出設備のあるところ)が「愛知県名古屋市」に加えて、「第2演奏所 東京都渋谷区」が追加されている。他の放送局は、識別信号欄が「****」となっていたり、既存の演奏所にに併記する形で「演奏所 東京都渋谷区」が追加されていたり、バラバラ。
バラバラなのは、各地の放送局の免許の条件に差異があるのか、単に、総務省の情報更新が終わっていないのか、謎。
いずれにしても、本部(東京)以外の各地の放送局のETVの親局のコールサインの指定は無くなって、演奏所に渋谷が加わったが、依然、各地の放送局の演奏所はそのまま残っているので、地域別の放送は可能なのだろう。
では、コールサインの指定が無くなった各地の放送局で「JOAB-DTV NHK東京教育テレビジョン」というコールサインが放送されるのはどういことなのだろう。
私見だが、NHK各地の放送局のETVを放送する無線局(特定地上基幹放送局)は、コールサインの指定のない無線局になったということなので、その無線局のコールサインがJOAB-DTVになったという訳ではなく、放送番組の内容として、東京のコールサインがそのまま放送されるだけで、それは当該無線局のコールサインの送出ではない、という扱いではないかと思うが、そういうことは律儀に運用するのが天下のNHKなので、違和感はある。
ここで放送局の呼出符号等の放送について、法令の定めをおさらいしておこう。
総務省令 無線局運用規則 第五章 地上基幹放送局及び地上一般放送局の運用 の第百三十八条に「呼出符号等の放送」という条文がある。
第百三十八条 地上基幹放送局及び地上一般放送局は、放送の開始及び終了に際しては、自局の呼出符号又は呼出名称(国際放送を行う地上基幹放送局にあつては、周波数及び送信方向を、テレビジヨン放送を行う地上基幹放送局及びエリア放送(放送法施行規則(昭和二十五年電波監理委員会規則第十号)第百四十二条第二号に規定するエリア放送をいう。以下同じ。)を行う地上一般放送局にあつては、呼出符号又は呼出名称を表す文字による視覚の手段を併せて)を放送しなければならない。ただし、これを放送することが困難であるか又は不合理である地上基幹放送局若しくは地上一般放送局であつて、別に告示するものについては、この限りでない。
2 地上基幹放送局及び地上一般放送局は、放送している時間中は、毎時一回以上自局の呼出符号又は呼出名称(国際放送を行う地上基幹放送局にあつては、周波数及び送信方向を、テレビジヨン放送を行う地上基幹放送局及びエリア放送を行う地上一般放送局にあつては、呼出符号又は呼出名称を表す文字による視覚の手段を併せて)を放送しなければならない。ただし、前項ただし書に規定する地上基幹放送局若しくは地上一般放送局の場合又は放送の効果を妨げるおそれがある場合は、この限りでない。
3 前項の場合において地上基幹放送局及び地上一般放送局は、国際放送を行う場合を除くほか、自局であることを容易に識別することができる方法をもつて自局の呼出符号又は呼出名称に代えることができる。
ここで「これを放送することが困難であるか又は不合理である地上基幹放送局若しくは地上一般放送局であつて別に告示するもの」は、郵政省告示第五百九号。
無線局運用規則(昭和二十五年電波監理委員会規則第十七号)第百三十八条第一項ただし書の規定により、呼出符号又は呼出名称の放送を省略できる放送局を次のとおり定める。
一 一の基幹放送局と同一の免許人に属し、かつ、同一の種類の放送を行う他の一の基幹放送局の放送番組の全部を同時に中継する放送(以下「同時中継放送」という。)を行う当該一の基幹放送局(一日の放送時間のうち三十分以内の時間に同時中継放送以外の放送を行うものを含む。)
二 受信障害対策中継放送を行う基幹放送局
三 中継国際放送を行う基幹放送局
四 エリア放送を行う地上一般放送局
国際放送だの受信障害対策中継放送だのエリア放送などマイナーなものが登場するので読みにくいが、この省令と告示から、NHK、民放といった放送局に限定して要約すると
・放送局は、放送の開始および終了に際して、自局の呼出符号または呼出名称を放送しなければならない。テレビ放送の場合は、文字でも見られるように。ただし、自局と同じ免許人で、同じ種類の放送をおこなう他の放送局の番組の全部を同時に中継する放送局は、呼出符号または呼出名称の放送を省略してよい。
・放送局は、放送中は毎時1回以上、自局の呼出符号または呼出名称を放送しなければならない。テレビ放送の場合は、文字でも見られるように。ただし、自局と同じ免許人で、同じ種類の放送をおこなう他の放送局の番組の全部を同時に中継する放送局は、呼出符号または呼出名称の放送を省略してよい。放送の効果を妨げる(放送の邪魔になる、という意味かと思われる)おそれがあるなら、省略しても良い、自局であることが容易にわかる方法にしてもよい。
という、割と寛容な規定になっている。実際、放送局は、その局であることを明確にできる方法は映像、音声、さらにデジタル放送では番組表など識別する方法はあるので、コールサインの送出自体にあまり意味がないのかもしれない。